人生いろいろ有栖川

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ブログのパスワードを思い出したので自分語りをします。

 ここ数年は発症せずに治ってきたから時効だと思って話しますけど、僕はずっと夢遊病という病気でした。
 家族に聞くと、僕は夜中に起き上がって話していたりテレビを見ていたり、時には泣いたりしていたらしいです。
 けれども僕自身は起きてからもその真夜中の自分の行動を全く覚えておらず、自分がちゃんと眠っていた日とそうでない日の違いは次の日になっても全然わかりませんでした。
 しかし夢遊病状態の時の自分は毎晩の記憶を引き継いでいるようで、次の日の夜中に「昨日見た番組は?」「話の内容は?」と訊くと、ちゃんと答えてくれたそうです。

 大学に入って飲み会のたびになんとか最後まで起きようとしたり、皆が寝た後も眠ることなく一人始発で帰っていたりしたのは夢遊病がもし発症したら怖かったから、という部分も大きいです。(途中から妥協して気を張らなくなりましたが。そもそも、酔っぱらっていたということになった気もしますが)サークルの合宿なんかでも頑なにみんなと同じ部屋で寝ようとしなかった気がします。あの時はごめんなさい。

 本題に入ります。
 アメリカに住んでいた頃のことです。小学校低学年~中学年の頃です。

 僕は日本人だし、いつ父親の仕事の都合で帰国するかわからなかったためにあまりご近所との家族付き合いはしませんでしたが、同じ住宅街に住んでいたある家族には懇意にしてもらっていました。
 その家は父親がアメリカ人で、母親が日本人でした。そして僕と同い年の子が居ました。結構珍しい名前だったので伏せておきますが、Eから始まる名前だったのでEmilyちゃんとしておきます。日本語のミドルネームみたいなやつもあった気がしますがエミリーとしか呼んでいなかったんで忘れました。

 当時の僕も家の中でドッジボール大会を開いたり、それで窓ガラスが2,3枚割れても遊び続けていたために結局隣のアメリカ人に「空き巣が窓を割った」と勘違いされ通報されて仕事中の父親を大慌てで帰宅させしこたま怒られるという事件を起こしたり、要するに絵にかいたような問題児でしたが、エミリーもまたある意味で問題児でした。エミリーはいわゆる不登校の子でした。母親は学校に行かせたがっており、毎朝のように親子で押し問答をするのが嫌になったため、エミリーは毎日スクールバスの到着する時間になると眠るような生活リズムを送っていました。
 流石の母親も夜中ずっと起きていた活動限界寸前の人間を無理やり学校に連れて行くことはできないだろうな、と踏んでいたのでしょう、そしてそれは実際にかなり効果的だったっぽいです。
 
 エミリーの見た目の話をします。僕が知り合った数十人を見る限り、ハーフの子供の見た目はけっこうしっかり成功か失敗かの二択に分かれてしまうのかなと思うんですけど、その中でもエミリーはそれなりに成功の部類に入るような女の子でした。見た目のほとんどは白人だった父親譲りなのに、美人であるという事実だけを日本人の母親から譲ってもらったような感じでした。

 僕は日本語学校に通っていて、他の日本人やハーフの子と接する機会も多かったのですが、エミリーは現地の普通の公立学校に通っていました。純アメリカ人ではない彼女は学校の子たちと馴染めずに困っていたのだと思います。心が無い僕は日本語学校に来ればいいのに、と彼女に何度も言ってしまいました。本人やご両親は僕にはぐらかしていたのですが、僕の母親がポロっと「そこまでのお金の余裕がないんだ」ということをぼかして僕に教えてくれました。
 渡米する前は五人家族で15畳くらいのおんぼろアパートに住んでいた僕は「あんなバカでかい家に住んでいるくせにお金がないなんてどういうことなんだろな」と思いましたが、今になって考えると日本語学校の皆の家のほとんどは僕やエミリーの家よりバカでかかったので、そういうものなのだろうと思います。(僕は親の会社から支援金が出ていたため、比較的貧乏でしたが何とか通うことができていました)(三階建てで地下室もある部屋がデフォルトっていうのは本当に意味が分からないと今でも思います)

 家族ぐるみで付き合いがあったので夕食なんかはしばしばエミリーと一緒に食べていました、仲良くなるとお互いの家に泊まるようにもなってきました。
 エミリーは学校に行けないようにするために昼夜が逆転していたので、ある意味で僕のお友達としてぴったりでした。僕の母親も毎晩毎晩この夢遊病患者の相手をするのに疲れてしまったのでしょうから、自分の代わりに話し相手をしてくれるエミリーをありがたがっていたような気がします。
 そしてもちろん、夜中に起き上がって話をすることをエミリーにも指摘されました。それは凄く恥ずかしかったのですが、それを嫌がって彼女の家に泊まりに行かなくなるのはもっと嫌だったので我慢していました。幸い彼女は夜中に話し相手が居ることに満足していたようです。

 詳しい話は割愛しますが、僕はエミリーに簡単に心を奪われてしまいました。ただしガキの頃だからといって真実の愛があるわけでもなく、ただ彼女の見た目が好みだったような気がします。外見7:3内面 くらいでした、途中から5:5くらいにはなりました、多分。
 けれど、頻繁に彼女の家に泊まり始めてから半年もしないうちに、エミリーの家族が引っ越すことが決まりました。
 それを聞いた瞬間はとても悲しかったような気がしますが、その後に押し寄せたのは「いつ想いを伝えよう」という焦りでした。

 最後の夜、僕はエミリーを家に泊めて欲しいと母親に懇願しました。そうすればエミリーの両親が引越の準備をスムーズにできるとか、彼女がウチで眠れば彼女のベッドを前日に送ることができるとか、我ながら適当な言い訳をよくあんなに並べられたな、と思います。
 なんでかはわからないけどエミリーも泊まりたいと駄々をこねていたようで、割とすんなり泊まってくることになりました。

 しかし僕のクソみたいなチキンハートはこの頃から既に頭角を現していたらしく、結局言えずじまいのまま僕は眠りについてしまいました。
 そして次の日の朝になるとエミリーの両親が彼女を迎えにきて、それから玄関で別れを告げるタイミングで僕はどうしようもなく泣いてしまいました。結局その日も昼夜が逆転していたらしいエミリーは非常に眠そうな顔をしていましたが、僕が泣くと流石に一緒に涙ぐみはじめました。
 それから彼女に「ずっと言いたいことがあった」とやっとついに切り出せたのですが、何故かエミリーはその内容を理解しているようなそぶりを見せ、彼女の方から「昨日の夜は嬉しかったよ」という言葉が出てきました。

 そこで僕は自分が夜中に夢遊病を発症してしまい、その時エミリーに告白して彼女から返答まで貰ったということを理解しました。
 そして「最後までエミリーは僕と夢遊病状態の僕を同じ人間だと思っていたんだ」ということに気付くと、別れの悲しみと同じくらいのやるせなさがポップしました。
 驚きのあまり泣き止んでしまった後の記憶はありませんが、結局自分の口で彼女に想いを伝えることがなかったことは覚えてます。
 
 それから「記憶を共有していない癖に好きな女だけは共有しているのはムカつくな」と思った僕は何となく自分自身が恋敵であるような気がしてしまい、夢遊病状態の自分を封じ込めることに心血を注ぎました。その情熱を使ってエミリーに手紙でも書けば良かったんでしょうが、今更な話です。
 疲れるだけ疲れた上で寝てしまったらあまりに眠りが深くて彼が現れないことに気付いたり、思春期が来たふりをして兄弟とではなく一人で眠ると言い張って眠れない時は布団の中でゲームをしたり、そうこうするうちに段々と自分の病気に折り合いがつくようになってきました。
 それから日本に帰った直後なんかは転校による不安で夢遊病状態の自分が現れることもありましたが、段々と頻度も減衰していき、そして今に至る、という感じです。
 もちろん帰ってからは一度もエミリーには会ってませんし、時折思い出したようにFacebookを調べてもそれらしき人物は見当たりません。転勤族のハーフってマジで日本語で登録してるか英語で登録してるかわかんないので、検索がいちいち二倍時間がかかってめんどくさいんですよね。

 結局何が言いたいのかと言うと、僕は自分の初恋の結果を今でも知らないんです。それから連絡を取ってもらえなかったという意味では失敗なのかもしれませんが。だけど僕自身も一度としてエミリーに手紙を書くことがなかったんだし、お互いに手紙を送らなかったが両想いだった可能性が無い事もないのかな、と思います。ダサいね。
 だけどだけど、エミリーが仮にいい返事をしていたとしても、好きだったのは僕ではなく夢遊病状態の自分である可能性だってある、というわけです。そう考えるとややこしくて仕方がないです。

 今でもよく飲み会で「初恋は実らないものかどうか」なんて話をして盛り上がることがありますが、そのたびに僕はこんな使い古された話題で語り明かせるバカな自分たちを嬉しく愛おしく思うと同時に、エミリーのことを少しだけ思い出します。彼女からの返答は知りませんから、僕はその話題になるたびにその時の気分で「自分は実った」「自分は実らなかった」のどちらかを話します。18を超えたあたりからすっかりご無沙汰ですが、もし次に夢遊病状態の自分が出てきたら、あの時の答えを訊いてみようと思います。


 

 

 

 最後に、この話は99.99999999999999999999999999999999999999999999999%嘘です。
アホ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 けど少しだけ本当なんだよな~